スクールシンデレラ
私がトイレから出てくると廊下には人だかりが出来ていた。
「ねえ、誰のこと待ってると思う?」
「おいおい、一体アイツ何分そこにいるんだよ」
誰かいるんだ。
なんとなく、分かるけど。
でも、私には関係ない。
輝きは天と地ほどの差があるから。
近づいてはいけないんだ。
人の間をぬって自分の教室へと向かう。
のだけれど…
なんか見られているような気が…
四方八方から視線を感じて私は駆け出す。
「おい!桜井乙葉!」
…ーーー私!?
しかもこの声。
もしかして…
「何分トイレにこもってんだよ?!衣装直してもらえないと出られないんだけど」
「ごめんなさい」
私は急いで彼に駆け寄り、キラキラの衣装と対峙する。
「どこを直せば良いですか?」
「ここ、このボタン」
彼の白くて長い人差し指の先には私が付けた覚えの無いボタンがあった。
チクリと胸に針が刺さった。
でも、私は雑用係。
つべこべ言わずにやれることをやろうと思った。
誰がいつの間に付けたのだろう?
いや、いつの間はわかってる。
衣装が無くなったさっきの間だ。
どうせ、彼女たちが付けたんだろう。
衣装に似合うと思って付けてみたんだ、
とか言って自分が全部作ったみたいな顔をする。
絶対、その手を使うに違いない。
心底やりきれない気持ちになったが、やるしかなかった。
「あの…ここだと針も糸も無いので雑用係の部屋に来て頂いても良いですか?」
「良いけど早くして。最終練習するから」
「すみません」
「謝るより早く連れて行って」
「すみません…」
やっぱり謝るしかなかった。
そんな私を見て兵藤くんは終始ニヤニヤ笑っていた。
バカにされているとわかってるのに、それでも彼の笑顔は特別で、ずっとみていたいと思ってしまう。
歩いていてもそう。
三歩後ろを歩いているのに、彼を感じるとドキドキする。
心臓が口から出てきそうだった。
図書室に入った時には神経をすり減らし過ぎて、疲れ切っていた。
「そこに座っていて下さい。今裁縫道具持って来るので」
彼はキョロキョロと辺りを見回しながらも大人しく座った。
「じゃあ、ボタン直します」
「ああ、直さなくて良い。取っちゃって」
「どうして?」
「どうしてって、要らないから。この衣装に要らないって俺が思うから」
「でも、本当に…ーー」
「良いから早く取って」
「あっ…、はい」
ハサミを手に取り、衣装に手をかける。
以上に手が震え、うまく目的地に辿り着かない。
ああ…どうしよう…
まごついて切ることができない私に痺れを切らし、兵藤くんは私の手からハサミを奪い取ると、パチンと切った。
自分で判断し、自分で切れるのなら、最初からそうしてくれれば良かったのに…
無駄な緊張感を味わい、さらに精神的な疲れが上乗せされた。
「ここから本番。これは俺にはできない。ここのほつれ、1分以内に直して」
「1分!?」
「時間無いから急いで」
「でも…」
「でもじゃない!!早くしろ!!」
いよいよ本気で怒り始めたので、私に“ やらない ”という選択肢はなくなった。
糸と針を持ち、意識を集中させる。
「カウントダウンスタート!!
59,58,57,56…」
あわわわわわわ…
焦るな。
絶対
絶対
絶対
大丈夫。
私なら出来る。
「40,39,38,37…」
「失礼します」
遂に衣装に手をかけた。
残りの秒数が焦らせるけれど、大丈夫だと自分に暗示をかけて踏ん張る。
ほつれを縫い合わせるのは結構大変で、細かい仕事なだけに目がしばしばした。
「10,9,8,7…」
あとは玉結びだけ。
「4,3,2…」
糸を引っ張り、
ハサミでチョキリ!
「1…」
「出来ました!」
やった!!
出来た!!
「やれば出来るじゃん」
兵藤くんの手が私の頭に伸びて…ーーー
「よしよしすると思った?」
ぎゃ、
またやられた。
「とりあえず、ありがと。じゃ、俺行くわ」
この前と同じパターン。
やっぱり、進展無し。
「絶対見ろよ、演劇」
それだけ最後に言い残し、彼は去っていった。
しばらくの間、彼が座っていた椅子をぼーっと眺めていた。
1人誰もいない図書室に取り残され、言いようの無い寂しさが襲ってくる。
ここで誰にも認められず、黙々と作業をしていた。
つばめちゃんを始めとする雑用係のみんなとたわいない話で盛り上がった。
いつか報われる日がくると信じて仕事をがんばった。
色んな思い出が蘇り、同時に寂しさを生む。
今日で平和な日々が終わりを告げるであろうこと。
最後まで決して報われなかったこと。
シンデレラストーリーなんて私の人生には描かれないってこと。
その全てを悟り、飲み込んだ時、涙が一筋頬を流れた。
私を見つけて。
私をここから出して。
私だけの王子様…
お願い…ーーー
「ねえ、誰のこと待ってると思う?」
「おいおい、一体アイツ何分そこにいるんだよ」
誰かいるんだ。
なんとなく、分かるけど。
でも、私には関係ない。
輝きは天と地ほどの差があるから。
近づいてはいけないんだ。
人の間をぬって自分の教室へと向かう。
のだけれど…
なんか見られているような気が…
四方八方から視線を感じて私は駆け出す。
「おい!桜井乙葉!」
…ーーー私!?
しかもこの声。
もしかして…
「何分トイレにこもってんだよ?!衣装直してもらえないと出られないんだけど」
「ごめんなさい」
私は急いで彼に駆け寄り、キラキラの衣装と対峙する。
「どこを直せば良いですか?」
「ここ、このボタン」
彼の白くて長い人差し指の先には私が付けた覚えの無いボタンがあった。
チクリと胸に針が刺さった。
でも、私は雑用係。
つべこべ言わずにやれることをやろうと思った。
誰がいつの間に付けたのだろう?
いや、いつの間はわかってる。
衣装が無くなったさっきの間だ。
どうせ、彼女たちが付けたんだろう。
衣装に似合うと思って付けてみたんだ、
とか言って自分が全部作ったみたいな顔をする。
絶対、その手を使うに違いない。
心底やりきれない気持ちになったが、やるしかなかった。
「あの…ここだと針も糸も無いので雑用係の部屋に来て頂いても良いですか?」
「良いけど早くして。最終練習するから」
「すみません」
「謝るより早く連れて行って」
「すみません…」
やっぱり謝るしかなかった。
そんな私を見て兵藤くんは終始ニヤニヤ笑っていた。
バカにされているとわかってるのに、それでも彼の笑顔は特別で、ずっとみていたいと思ってしまう。
歩いていてもそう。
三歩後ろを歩いているのに、彼を感じるとドキドキする。
心臓が口から出てきそうだった。
図書室に入った時には神経をすり減らし過ぎて、疲れ切っていた。
「そこに座っていて下さい。今裁縫道具持って来るので」
彼はキョロキョロと辺りを見回しながらも大人しく座った。
「じゃあ、ボタン直します」
「ああ、直さなくて良い。取っちゃって」
「どうして?」
「どうしてって、要らないから。この衣装に要らないって俺が思うから」
「でも、本当に…ーー」
「良いから早く取って」
「あっ…、はい」
ハサミを手に取り、衣装に手をかける。
以上に手が震え、うまく目的地に辿り着かない。
ああ…どうしよう…
まごついて切ることができない私に痺れを切らし、兵藤くんは私の手からハサミを奪い取ると、パチンと切った。
自分で判断し、自分で切れるのなら、最初からそうしてくれれば良かったのに…
無駄な緊張感を味わい、さらに精神的な疲れが上乗せされた。
「ここから本番。これは俺にはできない。ここのほつれ、1分以内に直して」
「1分!?」
「時間無いから急いで」
「でも…」
「でもじゃない!!早くしろ!!」
いよいよ本気で怒り始めたので、私に“ やらない ”という選択肢はなくなった。
糸と針を持ち、意識を集中させる。
「カウントダウンスタート!!
59,58,57,56…」
あわわわわわわ…
焦るな。
絶対
絶対
絶対
大丈夫。
私なら出来る。
「40,39,38,37…」
「失礼します」
遂に衣装に手をかけた。
残りの秒数が焦らせるけれど、大丈夫だと自分に暗示をかけて踏ん張る。
ほつれを縫い合わせるのは結構大変で、細かい仕事なだけに目がしばしばした。
「10,9,8,7…」
あとは玉結びだけ。
「4,3,2…」
糸を引っ張り、
ハサミでチョキリ!
「1…」
「出来ました!」
やった!!
出来た!!
「やれば出来るじゃん」
兵藤くんの手が私の頭に伸びて…ーーー
「よしよしすると思った?」
ぎゃ、
またやられた。
「とりあえず、ありがと。じゃ、俺行くわ」
この前と同じパターン。
やっぱり、進展無し。
「絶対見ろよ、演劇」
それだけ最後に言い残し、彼は去っていった。
しばらくの間、彼が座っていた椅子をぼーっと眺めていた。
1人誰もいない図書室に取り残され、言いようの無い寂しさが襲ってくる。
ここで誰にも認められず、黙々と作業をしていた。
つばめちゃんを始めとする雑用係のみんなとたわいない話で盛り上がった。
いつか報われる日がくると信じて仕事をがんばった。
色んな思い出が蘇り、同時に寂しさを生む。
今日で平和な日々が終わりを告げるであろうこと。
最後まで決して報われなかったこと。
シンデレラストーリーなんて私の人生には描かれないってこと。
その全てを悟り、飲み込んだ時、涙が一筋頬を流れた。
私を見つけて。
私をここから出して。
私だけの王子様…
お願い…ーーー