幼馴染の彼~あの日の約束~

外での彼

 今日は、会社のメンバー6人と、居酒屋でお疲れ様会をしている。
 メンバーは、私をはじめ、大田真子、佐川祥子、後輩の石倉明美、布川淳、森田祐助。
 もとは、同じ高校や大学の集まりで仕事の悩みや愚痴なんかを発散するため?に時々、集まっては食事会をしている。気心の知れたメンバー。

「怜美、そこで片桐君に会ったよ」

 と、同じ部署で一番仲のいい真子が、トイレから戻るなり言ってきた。
 真子のいう「片桐君」とは、真子の中学からの同級生で、片桐操一君。真子が企画したエリート合コンで知り合ってから、月に1度くらい飲み会で会う人。気立てのいい、爽やかなイケメンというイメージ。

「偶然だね、片桐君も飲み会なの?」


「なんか、職場の歓迎会で来てるみたい。奥座席の集団がそうみたいよ」


「へぇ」

 真子が指差す、奥座席は襖があってちょっと見にくいけど、たくさんの人で盛り上がっているようだった。
 そういえば、片桐君も智弥と同じ満元物産の営業部だったはず。

 その歓迎会といったら、もしかして?
 ちょっと体を斜め向こうに傾けて、少し奥を覗き込むように、奥座席の集団を見ると、智弥が見え隠れしながらも姿が垣間見えた。

 いた。片桐君と同じ部署だったのね。
 オフタイムのせいかスーツ姿も少しくだけさせて、ネクタイも緩めている。そんな智弥もかっこいいと思いながら見つめてしまう。
 楽しそうに笑っているが、よくよく見れば智弥を取り巻いているのは、若い女性たち。智弥と同じように楽しそうに笑っていた。
 そんなところを見たら、なんとなく面白くなくて視線を戻す。

「怜美さん、僕の話聞いてます!?」

 目の前に座っていた、森田君が少し目を赤くして訴えてきた。
 あ、話聞いてたんだっけ、忘れてた。

「聞いてるよ。田所部長でしょ?」


 途中まで聞いてたけど、智弥を見てた辺りでは、完全に何も聞いてなかったので、その前まで話題の中心人物であろう「田所部長」の名を出すと、そうですと彼は泣きそうな顔で頷いた。

「確かに、あの仕事は僕の推しが弱かったのはわかっています。反省だってしてます。なのに、部長、僕にだけキツイ言い方してくるんですよ、いまだにですよ、いまだに!」

 田所部長はぐちぐちうるさくて、細かいことにもうるさくてけっこう嫌われてる人物ではあるけれど、仕事はしっかりやるし、真面目だし、上からの評価も高い。外部からの評判だって悪くないし、私は嫌いではない。
 でも、若い世代からすれば、口うるさい頑固おやじって感じで、昨今、うるさいことを言われなくなっている世代からは嫌われている存在というのも確かで。

 この前もたまたま、田所部長と会った時も、「全く最近の若いもんは根性が無さすぎで困ったもんだ。ガミガミ言えば、すぐにパワハラだの、なんだのっていうし。扱いにくい時代になったもんだよ」と、愚痴っていたっけ。



 

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