幼馴染の彼~あの日の約束~
 智弥はそう言いながら、右腕を壁にあててくるせいで、ほぼ密着しているような状態になってしまった。身長差があるぶん、目の前は智弥のワイシャツしかみえないが、ほのかに柑橘系の爽やかな香りがした。

「ちょ、智弥、いいかげんにして・・・こんなところ誰かに見られたら・・・」


「俺は見られてもいいけど?」


「なっ!?酔ってるの!?」


「全然。むしろ酔いが覚めたって感じ」

 あまりの近距離で、しかも逃げ場を完全に失った状態だと気付いた途端、全身が熱くなっていくのを感じる。
 どうしよう。ほんと、こんなところ、真子たちに見られたら、なんて説明したらいいのか・・・

 その時

 いきなり顎をクイッとあげられ、智弥と目が合う。
 心臓がバクバクと大きな音を上げる。

「あんまり、心配させないで・・・」

 そういって、智弥の顔が近づいてきた。

「!」

 もしや、キ、キス!?
 こんなところで、待って!!心の準備が!
 心で叫んだところで、智弥に伝わるわけでもなく、思わずギュっ目を瞑った。

 そして

 柔らかくて温かい、多分、智弥の唇が、優しく私の額にあてられた。

 時間にすれば10秒もなかったはずなのに、ずっとされているような気持ちでいたけど。
 ポンと軽く頭を叩かれて、ハッと目を開くと、智弥は何事もなかったように

「じゃ、また後で」

 と、軽く手を振りながら、姿を消していった。
 残された私は茫然としながら

「なによ・・・」

 小さく呟いたのだった。
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