幼馴染の彼~あの日の約束~
 「中庭ってまだあるの?」
 
 食後、突如、智弥に聞かれる。


「あるわよ、よく覚えていたわね。ほら、怜美一緒に行って来なさいよ」


「あ、うん。・・・・こっち」


 ゆっくりと立ち上がると、智弥も立ち上がる。そして私たちは中庭へ向かった。


「おー、変わってないな。ん、花が増えてる?」

 縁側に腰かけながら、庭を見つめる。

「かもね。お父さんが毎年結婚記念日のたびにお花やら木やら買ってきては植えてるみたいだから」


「珠子さん、植物好きだもんな」


「そうそう。お母さんが喜んでくれるからって、買っては植えての繰り返しで、ややジャングル化してきてるね」


「そうか?手入れしてるように見えるけどな」

 そうかな?と思いつつ改めて庭を見渡すと、確かに手入れはしているんだろうなと気が付く。普段中庭なんて来ないし、一人暮らししてからはもっと見なくなった。


「俺さ、ここの場所好きだったんだよね」


「えっ、そうなの?知らなかった」


「うち、父さんが転勤するからさ、一軒家なんて無理でいつもマンションばっかりだったから、怜美ん家に憧れてた」


「そっかぁ」

 智弥のお父さんはいわゆる転勤族というもので、一か所に3~5年のペースで移動しているという話だった。
 智弥を出産した時も、秋山家は転勤してきたばかりで、回りに知人もいなければ頼れる人もいなかった麻里子さんにとって、うちのお母さんはとても大事な存在だったと。
 
 しばらく転勤もなかったから、東京でこのまま住むのかもしれないと思っていた矢先に長野への転勤が決まり、智弥はすごく寂しかったと言った。
 
 智弥は高校から寮生活をしてきたが、両親はあれから、長野、岐阜、北海道、四国とあちこち転勤し、今は山梨で落ち着いているらしい。

 


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