(完)嘘で溢れた恋に涙する
背筋が凍る。



その時気付いた。



私は理玖にとって敵であり、敵でしかないのだと。



理玖は私を殺すことなんていとも簡単なことなんじゃないか。




持っているタオルに包丁を隠して、襲いかかってくるんじゃないか。



ありえないと思いたい。だけどどこかで疑ってしまう。



気づかれないように、少しずつ後ずさりをする。




その瞬間、理玖は私を睨みつけて、ものすごいスピードで手を振り上げた。



逃げることも、背を向けることもできなくて、ぎゅっと目を閉じる。



「俺が怖いか?」



声がそばで聞こえて、恐る恐る閉じていた目を開いた。



理玖は唇がふれあいそうな距離でその動きを止めていた。




返事もできず、無意識のうちに手足が震えるのを感じながらただ立ち尽くしていた。




「お前が転校してきて、お前の顔を見た瞬間、俺は筆箱に入ってたハサミでお前の首を掻き切ってやろうかと思ったよ」




耳のすぐ近くで喋る理玖の声が、なぜか遠くで聞こえる。




「だけど、なんとか思いとどまった。
俺の家族を奪ったお前の父親と同じことだけはしたくなかった。
だから考えたんだよ。
お前に一番絶望を感じさせられる方法を




お前はあの日からずっとずっと地獄を見てきただろ。当たり前だけどな。
でもそのせいで、すぐにその事実を暴露したところであの時のお前は全く傷つかなかっただろ。
だから、お前に十分すぎるほど幸せを感じさせて、その後に絶望に突き落とす。
それが俺の復讐だよ」







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