(完)嘘で溢れた恋に涙する
そして、何よりもこのニュースを世間に知らしめたのはある週刊誌の記事だった。




意識不明の重体だった海央ちゃんはその日の夜中の間に必死の延命治療もむなしくその幼い命を落としてしまったらしかった。




週刊誌によると海央ちゃんは一言言葉を残して亡くなったらしい。




その時の言葉は余りにも小学四年生の幼い少女には似つかわしく、大人びた言葉だった。




城島一家はその事件の半年前に父親を病気で亡くしていた。




そしてその事件があって、長男である理玖だけが残されてしまった。




その一人の少年が背負うにはあまりに残酷な展開に気が動転し、泣き叫びながら必死で海央ちゃんを引き止めようとした理玖に対して、海央ちゃんは最後の力を振り絞ってこう言った。



『お兄ちゃんは幸せになってね』





たった小学四年生、10歳の少女が死の間際に、自分の死を受け入れ、そして残される者の幸せを祈ったのだ。





立ち会っていた看護師からその感動的な話を聞いた記者は記事一面にその話題を載せた。




感動の謳い文句と共に、世間に売り出されたそれは沢山の人に読まれ、SNSで広められ、感動を与えた。




そしてそれと同時に加害者であるお父さんについてまた新しい報道がされた。




お父さんは初め、自分の秘書を犯人として警察につき出していたのだ。




そのために秘書の私物を車に乗せたり、色んな工作をアホみたいにやっていたらしい。




警察が一般人の工作に気づかないはずがない。



すぐにばれて、お父さんが逮捕された。




犯人に仕立て上げられた秘書はたくさんのメディアでお父さんのその非人道的なやり方、そしてそれまでの社長としての独裁的、暴虐的な態度について余りあるほど語っていた。





42歳の男のあまりにも自己中心的な行為と、10歳の少女の優しい言葉は比べられて、蔑まれ、世間の怒りは高まった。




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