(完)嘘で溢れた恋に涙する
すると、


「いいよいいよ、てかさー、由姫ってー」


返事が返ってこないものとして、感謝を伝えたつもりだったのに、大きな声で返事が返ってきてぎょっとする。


先生も口元を下げてこっちを見て言った。


「城島うるさい。
授業中にナンパするな」


「すみませーん。
由姫のことが気になっちゃってーー」


理玖のふざけた返事にみんなが笑い出す。


だけど、私は異世界に突然放り出されたように、周りの雰囲気に少しもついていけなくて背中を丸めてしまう。


わからない。


たとえ彼が私のことがわかっていないとしても、彼はたった数年前に身を引き裂くような辛い思いをしているはず。


どうしてあなたはそういられるの。


砕けた口調で、おちゃらけた笑顔を浮かべられるの。


「はあ、坂井も大変だな」


先生から哀れみの目を向けられて、私はぎこちないながらも愛想笑いを浮かべておいた。


「えー、それどういう意味っすかー」



「いいから、授業に集中しろ」



「うぃーす」



理玖の返事で、明るい雰囲気から授業に戻る。



先生が黒板に書いていく文字を目で追う。



だけど実際、何も頭の中には入ってこなかった。



どうしよう、どうすればいいんだろう。



何も知らないような素振りを見せる陸玖に思わず合わせてしまったけど、これでいいはずがない。



やった、ラッキーで済ませられるような軽い事情じゃない。



心臓が異様に激しく鳴り続け、勝手に隣の席から圧力を感じてしまう。





すると、隣から私の名前を呼ぶささやき声が聞こえた。


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