(完)嘘で溢れた恋に涙する
それから記憶のことをお母さんに尋ねる暇もないくらい慌ただしく時間が過ぎた。



初めに訪れた先生が私の様子を見ると渋い顔になって唸りながら誰かを呼び出した。



そして、呼ばれてやってきた人は私にたくさんの質問を投げかけた。



お母さんは私の隣にずっと付いていてくれた。



質問はあまり覚えていないけど、私は筆談を求められたものの答えたくなくて用意された紙は白紙のままだった。



そして、私に付けられた病名は「心因性の失声症」。


強い心的外傷によって現れる心の病気だと言われた。


いつ治るかもわからないし、治し方もたくさんあるらしい。



「君は頑張りすぎて疲れちゃったんだね」



そう言ってニコニコと笑うその先生に私は笑いかえすことは出来なかった。



この先生が私の事情をどこまで知っているのかはわからない。



お父さんの事件のことも私が学校で何を起こしたのかも知っているのかもしれない。



でも、何も知らない可能性だってある。



だけど、この先生の笑顔は貼り付けられたように見えてどうしようもなく怖くなった。



自分が全て悪いくせに心的外傷とは馬鹿にしてるのか、と。



お前は病気を理由に逃げるつもりか、と。



次の瞬間、先生の顔が怒りの形相の凛花ちゃんに見えた。



私は無意識に呼吸がスピードを増していき、うまく息を吸い込めなくなっていき、目の前の景色がぐらぐらと揺れ、全身が痺れ、意のままに体を動かせなくなる。



「ハッハッハッ」



椅子に座ってられなくなって、よろよろとお母さんに倒れ込み、お母さんの泣きそうな声がそばで聞こえる。



慌てたように先生やそばにいた看護師が駆け寄ってきてくるのが見えた時、お母さんの膝の上でそのまま意識を手放した。



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