(完)嘘で溢れた恋に涙する
前と同じようにまた私はベッドの上で目を覚ました。


真っ白な空間にはほんの少しだけ慣れていた。



前と違うのはお母さんがベッドの近くに座っていて、私が目を覚ました瞬間泣き笑いのような声で微笑んでくれたことだけだ。



「きつかったね。さっきの過呼吸っていうんだって。点滴したら落ち着いたみたい」



見ると、左腕には針がさしてあった。



しばらくして私は聞かなければならないという衝動に駆られた。



失った記憶の中で私は何をしたのか。



私は何を忘れてしまっているのか。



お母さんに聞こうと思って口を開いたが、そこで話ができないのを思い出してやめた。



書くものがないかと辺りをキョロキョロと見回すと、お母さんは気づいたのかバッグからメモ帳とボールペンを取り出して渡してくれた。



『私はなんで病院に運ばれたの?』



簡潔で素朴なその質問をお母さんに見せると、お母さんは目を見開いて私を見つめた。



「覚えていないの…?」



頷くと、お母さんはなんともいえないような表情を見せる。



「いいのよ。忘れていることを無理やり思い出す必要はないわ」



お母さんはさっきと打って変わる早口で素っ気なく言い放った。



言えないようなことなんだろうか。



余計に不安が大きくなる。




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