(完)嘘で溢れた恋に涙する
しかし、美結も自分のせいで空気を悪くしてはいけないと自覚しているんだろう、わかりやすく嫌な態度はとったりしない。


しかし、自分から透に話しかけることは絶対にせず、それまで黙りこくっていた倫太郎くんに話しかけた。


「倫太郎くんは?2週間後の土日暇?」


「あ、ごめん。僕その日は模試があって」


倫太郎くんはすごく頭がいいらしく、しょっちゅう模試を受けに行っている。


「そっかあ、頑張ってね!」


「うん」


「なら、由姫だけやね!絶対来てね!」


さも、ここに透がいないように振る舞う美結に苦笑しながら頷く。


しかし透がそんなの気にするはずがない。


「美結ちゃん誰か忘れてない?」


ニコニコと笑みを浮かべながら話す透を何かに例えるとしたら、私は迷わずゾンビをあげる。


何を言われても、されても、一切気にせず立ち上がるその不屈の姿はゾンビにそっくりだ。


「忘れとらんよ。透くんはサッカーの練習でもしてたらいいんやない?」


美結も必死に冷静を装って応戦する。


「っていうか、美結ちゃん試合に出るの?」


会話はあまり通じていないけど、透の素朴な質問に美結は得意げに答えた。


「うん。うち、1年生で1人だけ個人戦にも団体戦にも出れると。すごかろ?」


美結の言うように、バドミントン部に入ってから美結は持ち前の飛びぬけた運動神経を武器にめきめきと実力を伸ばし、この前の公式戦ではベスト16まで残ったらしい。


次の新人戦では入賞を目指すと宣言し、先生からも大きな期待を受けているらしい。


「へ~。すごいじゃん」


「すごいんだね美結ちゃん」


透だけでなく、倫太郎くんも褒めてくれて、美結は嬉しそうに目を細めた。


だけど、透の顔には何か別の考えでもあるかのように見えた。


そして、美結が満足そうな表情をやめないうちにこう言った。


「それなら、ぜひ試合を見たいな」


普段なら断固拒否するはずなのに、美結は褒められたのがうれしかったのか、何を言われたのか余り理解していないような様子で間髪入れず、表情も変えず言った。


「仕方ないなあ、いいよ」


透はしてやったりといった顔をして、私のほうをみた。


美結はすごくいい子だが、とても単純だ。


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