(完)嘘で溢れた恋に涙する
「え?」


とぼける透に負けじと言葉を続ける。


「昨日だって別にバドミントンに興味があるわけじゃないのになんであそこまでして応援に行きたいって言ったの?」


「え?そりゃあ由姫ちゃんと休日に出掛けたいからさ~」


何でもないことのようにそう言ってのける透がすごく腹立たしい。


「…さっきの美結がいないことがラッキーみたいな言い方も、そういう風に自分の都合に美結の素直なところを利用するのやめてほしい…です」


私が人に怒るなんて、気が引けて仕方ない。


だけどこの人の言いようにされたくないし、何より美結を利用されるのはすごく気分が悪い、そう思ってなんとか思っていることをぶつけてみた。


しばらく無言が続き、透がうがいを数回して口元を拭いてこっちを見た。


思わずびくっと肩を震わせてしまう。


見たことないくらいに透の表情に色がなかったから。


逆ギレ?


恐怖で持っていた櫛を握りしめていたが、透はあっさりと謝罪の言葉を口にした。


「ごめん。確かに由姫ちゃんの気持ち考えてなかったわ」


予想外の展開に何も言えずにいると、透はペコリと頭を下げてきた。


「でも、美結ちゃんがいてもいなくても俺は一緒に登校したいと思ってるよ。いつも誘うタイミング逃しちゃっててさ~。あ、でも昨日の件は本当にごめんなさい」


そうやってしおらしく謝っている見慣れない姿の透に思わず笑ってしまった。


油断できない適当人間だけど、案外根は悪い人ではないのかもしれない。


少し落ち込んでいる透にもういいよと声をかけていると、おばさんの声がキッチンのほうから聞こえてきた。


「まだいるのーー?もう遅刻するわよ」


「大変、遅刻しちゃう」


慌ててバッグを持ち上げて肩にかける。


そして、大急ぎで櫛で髪をとかしながらおばさんの作ってくれた弁当をリュックの中に入れている透に言った。


「一緒に行くんでしょ?早くしなよ」


「え、いいの?」


透は少し驚いたような顔で私を見つめてきたが、今は見つめ合っている場合じゃない。


透の手を無理やり引っ張って玄関のほうへ駆けて行った。


「私も透に態度悪すぎたかもしれない。ごめんなさい」


2人で隣り合って玄関に腰を下ろして、ローファーを履きながらそう言って謝ると透はいつもの調子でへらへらと笑いながら答えた。


「デートしてくれたら許してあげてもいいよ」


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