(完)嘘で溢れた恋に涙する
人を傷つけると言う言葉が重く肩にのしかかる。


私は人を傷つけてしまうのが一番怖い。


そもそも人と関わらなければ万事うまく行くんだろう。


自分も傷つかないし、誰も傷つけないもの。


でもそれじゃ何も変わらない。


だから、初めから裏切られることを恐れてきた自分を少しでもいい方に変えようと努力してきたつもりだった。


もちろん透の場合は話が違うけど。


周りに対して無意識のうちに作っていた壁を、必死で打ち破ろうとしてきた。


でも届いてなかった。


やっぱり私は自分の世界を周りから切り離して、そばにいてくれる美結を抱き枕のようにして肌身離さず、同じ場所に蹲ってるんだ。


足取りが徐々に重くなる私に透が気づいてこっちを振り向いた。


その顔を見た瞬間、気づいてしまった。



私まだ自分から全てを打ち明けたこと一度もないじゃない。






美結にだってあの日聖奈ちゃんが大暴露しなければ未だに秘密にしていたかもしれない。


私はそもそも人と関わるってことがどういうことか一切わかっていなかったんだ。


物理的な距離が近ければいいってもんじゃないんだ。


心を通じあわせることが出来ない限り、私は誰とも繋がりあえないんだ。


結局私は未だに誰にも本当のことが言えず、殻に閉じ籠っているだけなんだ。


こんなのでどこが頑張ってきたと言える?


自分の自己満足を貫いて一生懸命生きてる気になっていただけだったんだ。


「私…全然ダメだ」


思わず溢れた小さなつぶやきはしっかり透の耳に届いていた。


「え?」


聞き返され、私は慌てて誤魔化そうとまた歩き出したけど。


心の中で誰かが呟いた。


『また逃げるの?』


そうだ。ここでまた誤魔化して、偽って、透と接したってさらに辛い気持ちになるだけだ。


透はこんなチャラチャラしてるけども、それでも私の言葉に真剣に向き合ってくれた。


それなら私も誠意で応えるべきなんじゃないか。



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