(完)嘘で溢れた恋に涙する
「やっと来た。遅えんだよ」


「わり。寝坊した」


体育館に入ってすぐ、人混みの中でも関わらず目ざとく俺を見つけた島田が近づいてきて苦言を漏らした。


今回はクラスメイトの太田のバドミントンの試合の応援を島田に誘われて待ち合わせ時間まで約束していたのに2時間の大遅刻をして遅れてきた俺が全面的に悪いので、素直に謝っとく。


「で、太田はどうだった?」


「ああ、とりあえず2回戦は突破してたよ」


「へえ見に来た甲斐があったわ」


「そりゃそうだ。これで負けてたらお前何もせずに引き返すことになってたもんな」



ねちっこい奴だ。


俺が悪いから何とも言えないが。




こいつ、島田と、バドミントン部の太田は同じクラスで、入学式から俺にしつこいくらいに絡んできていつのまにか休日に遊ぶほどの仲となっていた。


お調子者でクラスの人気者の島田と太田は相手するのが面倒な時もあるが、気を使わずに一緒に居られる存在でもある。



「太田は?」


「さっきまでここで喋ってたんだけどさあ、ウォーミングアップするって戻った」


そんな会話をしていると、急に島田は何かを見つけたように向かい合っている俺の背後を凝視して、頬を緩ませた。


こいつがこんな顔をするときはだいたい決まって好みの女を見つけたときだ。


予想通り、島田はむふふと笑いながら小声で俺に囁いてきた。


「俺さあ今日超可愛い子見つけちゃってさ。でもほら見てみろよ、あれ彼氏だよな?」


呆れ返りながらも、言われた通り振り向いて島田が顎を突き出して指している方を見る。


「あんな美少女の彼氏っつったらさすがイケメンだよな。ほら周りの女がみんな目ぇハートになってるぜ。せっかく後で連絡先聞こうって思ってたのに」


隣で島田がぶつぶつと呟いていたが、あまり内容は頭の中に入ってこず、俺はただその少女だけを凝視していた。



あいつ、間違いない。



由姫だ。



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