(完)嘘で溢れた恋に涙する
それから俺は生きることに対して本気になった。


徐々に俺の方に傾いて行く由姫を見るのが滑稽だった。


すぐにいつ裏切っても美味しい結果になることが目に見え始めていた。






なのに、いつからだろう。


無意識のうちにあいつの声を聞いてみたいなんて思うようになったのは。


いつも申し訳なさそうに眉毛を曲げて笑うあいつと筆談ではなく、本当に声と声で会話をしたいと思うようになり始めたのは。





俺は島に来てから嘘しか付いてこなかった。


自分の性格も偽り、言葉も偽り、死にたい気持ちを無理やり偽って生きてきた。


そうやって生きることでしか自分を守ることができなかった。


家族を亡くし、友達を裏切り、見えない人物によって傷つけられ、心はいつも叫んでいた。


もう死なせてくれと、楽にさせてくれと叫んでいた。


そんな俺が生きたいって思えたのはあいつのせいだ。


あいつに全ての恨みを当てつけるために、復讐のためにだった。


感動的な理由でもなんでもないが、そうやって俺に生きる力を与えてくれたのはどうしたってあいつの存在だ。


そして、俺が久しぶりに心から笑顔を浮かべられたのも皮肉だがあいつの前だった。


誰かを笑わせたいと思ったのも、あいつに対してだった。


あいつの声が復活した時は本気で嬉しかった。


透き通った滑らかな声は俺の胸をほんの少しだけ揺らした。


そうやって無意識に惹かれていたことに俺は気づいていた。


最低だと思い、自らを軽蔑した。


それでも俺は、俺のことを好きだと言って見違えるように綺麗に笑うようになったあいつをたたき落とすことができなかった。


あの時、あいつは少し足を引っかければ谷底に真っしぐらな位置にぼーっと突っ立っていたのに、俺は勇気が出せなかった。


あの美しい笑顔をもう壊したくないとまで思ってしまったのだ。


だから、あの日聖奈が俺たちの過去を暴露した時は助かったと思った。


その行為に不快感を感じ怒鳴りつけながらも、心のどこかでは感謝していた。


俺はこの与えられたチャンスを受け取らないわけにはいかなかった。


学校からあいつとともに逃げ出して走りながら、必死に自分に言い聞かせていた。


俺は由姫のことなんか好きでもなんでもない。


俺はやらなければならない。


家族のためにも、自分のためにも、こいつを最大限に傷つけてやるんだ。


もう希望なんて持てないくらいに。



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