(完)嘘で溢れた恋に涙する
気が付けば船は島に着いていて、他の乗客5,6人と一緒に慣れ親しんだ土地に足を踏み入れる。


日帰りの予定だから、荷物は小さなバッグに財布とスマホを入れてきただけの身軽な状態で、30分ほどかかるじいちゃんの家までの道のりをずんずんと歩いていく。


商店街の中に入ると、また店が一軒なくなっているのを見つけた。


少子化はこの島にもしっかりと暗い影を落とし、ここに来るごとに活気がなくなっていっているのを強く感じる。


その後、道ですれ違う島の住人達に、声をかけられその度に立ち止まって長話に付き合わされながらもようやく家の近くの林のあたりまでたどり着いた。


今日は家を訪れる前にあの場所を訪れておこうと思い、ガードレールを越えて林の奥へと進んだ。


昔、まだ家族が全員元気にそろっていた時、ここに来て父さんに教えてもらった場所。


夕日が沈む絶景を一望できるその場所は父さんもじいちゃんとばあちゃんから教えてもらったらしく、城島家に伝わる伝統だと楽しそうに教えてくれたのを昨日のことのように鮮明に覚えている。


落ち葉を音を立てて踏みながら歩き、たどり着くと見慣れた景色が広がる。


夕方じゃないから夕日は見えないが、真っ青な空と海はどこまでも見えて、心が穏やかになる。


そして足元には青と対照的な真っ白な絨毯のように一面に広がる花々がある。


俺が中学を卒業するまでは、ここの地面は落ち葉が大量に落ちているだけで花なんて見たことがなかったが、高校生になって初めてここに来た時には花で埋め尽くされていた。


初めて来たときは花たちが美しく咲き誇る様はまるで家族が俺を元気づけてくれているように感じて、涙が出そうなくらい感動した。


花には一切詳しくない俺は、最初は自然に生えてきたのかとも思ったけど、いつ来ても一切枯れていないその姿を見てちゃんと手入れされている花たちであることに気づいた。


じいちゃんとばあちゃんの仕業だろう。


2人は園芸が大好きで、家でもたくさんの花や野菜を育てているし、間違いない。


しばらくの間、花に囲まれた状態で寝転がり、ゆっくりと目を閉じた。


ここにいると安心できる。


父さんや母さん、海央がそばにいるような気分になれる。


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