(完)嘘で溢れた恋に涙する
しかし、痛みは一向に感じない。


状況がわからず、つぶっていた目を少しずつ開くと、私の前に誰かがいて振り下ろされた拳を受け止めていた。


その後ろ姿がすごく見覚えがあって、反射的に目を大きく開けその正体を確かめた。


そんなはずない。


ここにいるはずがない。


そもそも私を庇うはずがない。


わかっている。


痛いくらいにわかっているのに、私の方を振り向いたのは間違いなく陸玖だった。


そして私と同じように動きを止めていた周りの男たちの様子を見逃さず、押さえつけられて身動きが取れなかった私を男たちから引っ張りあげて躊躇なく私をその腕の中にすっぽり閉じ込めた。


目に広がるのは陸玖の白いTシャツだけだった。


さっきまでの光景が遮断されたように私の目の前から消えた。


「は?お前誰だよ」


金髪男の少し動揺した声が聞こえた。


「誰だっていいだろ。由姫立つぞ」


陸玖は鋭い声でそう言い返し、私を抱きしめたままで言った。


困惑しながらも上半身が浮いたのを感じて、慌てて足をふんばって立ち上がった。


だけど、こいつらがそんな簡単に見逃すはずがない。


「お前正義のヒーローのつもりかもしんねえけどその女に助ける価値ないからな?」


どこからかそんな声が聞こえて、続けるように違う声が聞こえた。


「そいつは親子をひき殺した男の娘なんだぞ」


そんなことあんたたちなんかより陸玖のほうがよくわかってるよ。


言い返したかったが、顔は陸玖の胸に押し付けられていて喋ろうとしてもうまくいかない。


だけど陸玖が私が言いたかったことを言ってくれた。


「そんなことお前らより知ってるっつの。俺はその親子の家族だからな」


陸玖の急な告白にすぐに反応できるほど、私たちを囲むやつらは頭はよくない。


しばらくの静寂が続き、急に合図をしたようにどっと笑い声が聞こえた。


全員の想いを代弁するように金髪男の声が言った。


「お前どんな冗談だよ。こいつの父親に家族を殺されたやつがこいつを助けるわけねえだろ」


確かにその通りだ。


なんで陸玖は私を守ろうとしているんだろう。



そこで私は気がついた。


あの時と状況が似ていることに。


初めて陸玖と出会った日、責められていた私を救ってくれた時と。


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