(完)嘘で溢れた恋に涙する
その後、とりあえず近くの病院に行って2人とも診察を受けた。


私はちょっとした擦り傷や痣以外に異常はなく、湿布を貼ってもらったら、病室を出された。


陸玖もあれだけ殴られていたにもかかわらず、特に大きな怪我はなかったみたいだ。


鍛えているからと自慢げに笑っていた。


その後、何度も断ったのに、陸玖は最後まで私を送り届けてくれた。


下宿先が小さく見えるところまでたどり着くと、美結がうろうろと行ったり来たりしているのが見えて思わず声をかける。


「美結!」


だいぶ距離は離れていたのに、美結は一発で振り向き私のところへ突進してきた。


「由姫ぃぃぃ!!心配したとよ!?大丈夫なん?」


上から下まで注意深く見られながら、そう確認されて苦笑いしながら頷いた。


「ああ、もう絶対寿命縮んだって。
陸玖はちゃんと間に合ったと?」


「…間に合ったとは言い難」


美結の問いかけに馬鹿正直に答えかけた陸玖に美結が強烈な睨みを効かせる。


「は?あんたふざけてんの?」


慌てて、2人の間に割って入り美結をたしなめる。


「陸玖は十分早くきてくれたから!
私は大丈夫だし!」


「本当に?嘘つかんでよ?」


「うん、平気」


でも、こうしていると、中学の時に戻ったみたいだ。


陸玖と美結がしょうもない口喧嘩をして、それを私がたしなめて。


そんな日々が宝物だった。


失いたくなかった。


「あ、そういやあの馬鹿が由姫がいないって知った瞬間飛び出して行ったんやけど知らん?」


美結が急に思い出したように手を打った。


あの馬鹿とはきっと透のことだろう。


「見てないけど…」


答えると、美結が面倒くさそうにスマホを取り出して何か操作をしていた。


すると、ずっと隣にいた陸玖が私の名前を呼んできた。


「由姫、連絡先教えて」


「え?私スマホ持ってない…」


「は?携帯も?嘘だろ?」


私はいたって正直だが、陸玖は教えたくないと暗に言っているものと思ったらしい。


私が陸玖に嘘をつくはずないのに。


「本当だって、そんな余裕ないもん」


ムキになってそう答えると、応戦するように美結もスマホを見たままで言ってくれた。


「ホントだよ。信じられないなら私の連絡先見る?」


そこまで言われて、さすがに陸玖も信じたのか素直に首を振った。


「いや、いい。ごめん」


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