(完)嘘で溢れた恋に涙する
少しすると、陸玖は下宿の門限があるからと言って走って帰っていた。


それと入れ替わるように、美結から連絡を受けた透が帰って来た。


「由姫、よかった…。大丈夫なのか?」


息を切らしながら帰って来た透は顔を青くしたままでそう聞いてきた。


心配をかけてしまったことに申し訳なさを感じながら、自分の無事を答えると、透は心の底からほっとした表情を浮かべて膝に手を置いて深く息を吐いた。


「ごめんね、心配かけちゃって」


手を合わせて頭を下げると、透は眉を曲げて笑った。


「無事だったんなら何でもいいよ」


そこに、美結も軽口を叩いて入ってくる。


「そもそもあんたが気付いとけばよかったとよ。普段気持ち悪いくらい由姫に付きまとっとるとやけん」


「くっ、それは酷いぞ、美結ちゃん」


「何も言い返せないんじゃん」


「確かにその通りだ…。じゃあこれからは本当に俺いつも由姫の傍にいることにするわ」


「ちょっとやめてよ」


徐々に美結と透の掛け合いは冗談のようなものを含み始め、思わず鋭くツッコミを入れてしまい、いつの間にか笑い声に変わっていた。


それから、やっと下宿の中に入っていつも通りみんなで並んで夕食を食べた。


つい数時間前まであんなに恐ろしい現場にいたことが信じられないくらい、平穏な生活にあの出来事がなかったのではないかとまで感じてしまう。


陸玖のあの言葉も夢だったんじゃないかって。


でも、陸玖が抱きしめてくれたあの腕の優しさが今も体に強く残っている。


それがやはりあれが現実だったことを教えてくれる。


夕食を終えて、自分の部屋まで戻るときにずっと気になっていたことを美結に尋ねてみた。


「ねえ、美結はどうして私があの人たちに連れていかれたことに気づいたの?」


「ああ、なんか練習を用事で早く帰った子が遠目やったけどあんたらしき子がガラの悪い連中に連れていかれてたのが見えたって連絡してきて。
たまたま最近陸玖と連絡取り合っとって今日がオフって知っとったけん、間違いならそれでいいけんって言って探すの手伝ってって連絡したと」


「あ、そういうこと。その子にもお礼言わなくちゃ」


ポツリと独り言を漏らしていると、ふいに美結が言いにくそうに尋ねてきた。


「言いたくないんやったら言わんでいいとけど、陸玖と何かあった?」


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