(完)嘘で溢れた恋に涙する
いつも軽いけど、本当はちゃんと優しくて、いつも私のことを見てくれてて。


事件のことを知っている上でこんなに想ってくれる人はもう出会えないだろう。


私はそんな透を手放すのが嫌なんだ。


本気で断ってしまったら、もう元には、今の関係には戻れないだろう。


それが怖くてはっきりと言えないんだ。


それに私は、今の私はたぶん心の中のほんの一部に透がいる。


揺れてる。


しつこいくらい私を想ってくれてる透に応えたいなんて思ってる。


断ち切らなきゃいけないのに。


「ねえ、由姫。もう誤魔化さないでよ。俺は本気だから」


窓際に座って外を眺めている透がふいにそうこぼした。


「わかってるよ」


私はそう答えることしかできなかった。




バスを降りると、外は更に寒くなっていた。


思わず体を震わせると透が着ていたパーカーを羽織らせてくれた。


初めは断ろうとしたけど、一向に諦めてくれなかったので仕方なく受け取った。


下宿の灯りが見えてきた時、玄関の先に人影が見えた。


男子高校生らしきシルエットに目を凝らし、誰か確認しようとしてハッとした。


あと数メートルのところまで近づいて確信した。


「陸玖…」


思わずその名前を呼ぶと、ポケットに手を突っ込んで体を小さく縮こめていた陸玖がこっちを見た。


その表情は明るく見えた。


「由姫。やっと来た」


嬉しそうに声を弾ませたけど、私の隣に視線を移し口を真一文字に結んだ。


隣の透も気まずそうに私を見た。


「ど、どうしたの?」


前と隣を交互に気にしながら声をうわずらせながら聞く。


「いや、また来るって言ったから。
由姫と話したくて」


陸玖が視線を下に落としながらそう答えた。


なるほど、でもタイミングがちょっと悪すぎたよ。


動揺していると、透が私の手から荷物を取り上げて玄関の方は歩いて行った。


「荷物持ってっとくから。早めに帰ってきなよ」



それは私が着ていった服たちが入った袋で、ずっと代わりに持つと言われていたけど断っていたものだ。


「あ、ありがとう」


慌ててそう言うと、透は振り向かずに頷いて、下宿の中に入っていってしまった。




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