(完)嘘で溢れた恋に涙する
気づけば1時間が経っていた。


寒さも忘れて、話し込んで


いつの間にか、笑っていた。


もう一生無理だと思っていたのに、普通の会話ができていた。


からかわれて言い返して笑い合って、1年前の思い出話で盛り上がって。


ただ時間が過ぎてほしくなかった。


このまま世界が終わっても私は構わない、本気でそう思った。




「うわ、もうこんな時間じゃん」


気づいてほしくなかったことにとうとう陸玖が気づいてしまった。


スマホの画面を見て、慌ててベンチを立ってしまった。


「あっという間だったな。また来週来ていい?」


陸玖がリュックをからいながら軽い口調で聞いてきた。


咄嗟にもちろんと答えるところだったけど、グッと飲み込んだ。


「…だめ」


「あ、来週都合悪い?じゃあその次」


さして気にしていない様子の陸玖の言葉を遮って強く言った。


「その次も、、ずっと無理。もう二度と来ないで」


私の急な変貌に怪訝そうに陸玖は眉をしかめて私の顔を見つめた。


私はぎゅっと拳握って、その顔を見返すことしかできなかった。


「なんで?俺ともう会いたくない?」


視線がぶつかりそうになったけど、必死に逃げる。


目を合わせたくない。


「そう、会いたくないし、話したくない」


「なんで?」


「…っ、陸玖といるときついからっ」


陸玖は飽きることなくなんでとそればかり聞いてくる。


もう飽きてよ。


所詮由姫じゃないかと、こんな奴どうでもいいやと思い直してよ。


「なら、目ぇ見て言えよ」


ふいに陸玖が私の顎を片手で包み込み、無理やり自分の方に向かせて、目が合ってしまう。


鋭いその視線とは逃れられず、その瞳には大きく私が映っている。


答えられない。


何も言えない。


だけど喋らないと、私は




泣いてしまう。



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