(完)嘘で溢れた恋に涙する
「あんたのこと好きなやつにここまで言わせとって、それでもしらばっくれるつもりなの?」


ふいに背後のドアの方から、聞きなれた声が聞こえた。


「美結…。しらばっくれるって何?私はそんなつもり」


ないと言いかけたが、頬に強い衝撃を受けて言えなかった。


数秒後に美結に平手打ちされたのだと理解した。


頬がだんだん熱くなっていくのを感じ、震える手で痛むそこに手を置いた。


透は大きく目を見開いて、美結に咎めるような視線を向けた。


それでも美結は構わず、私の前で仁王立ちをして言い放った。


「もうよかって嘘つかんで。
今のあんたはただの弱虫だよ。
幸せを求めて傷つくのが怖いだけ」


頭を重い石で打ちつけられたような気分だった。


私のすべてを一言で語られたみたいだ。


でもそれでも私は弱虫から抜け出すことはできなかった。


叩かれた痛みも、あの日受けた陸玖からの言葉に比べればずっとマシだ。


「…そうだよ、仕方ないでしょ…
美結にも透にもわからないよ!!
私はこれまでずっと傷ついてきた。
文句は言えないよ、だって私は幸せになることは許されないんだから。
それでももう傷つきたくないって思うのは当然でしょ!?
何が悪いの?
好きだよ、大好きだよ
陸玖と一緒にいたいよ…
でも怖い。
いつか裏切られるかもしれない、また1人になるかもしれない。
それなら初めから選ばない方がいいじゃない!!」


本心をこんな風に大声で叫んだのはいつぶりだろう。


ああ、あの凛花ちゃんに責められて暴れたとき以来か。


あれ以来、傷ついても怒りを感じることは一度もなかった。


そもそも私に怒る権利はないと思えば、どんなことも我慢できた。


でも私は今確かに怒っている。


自分を否定されて怒りを感じている。


ああ、きっともう離れて行ってしまう。


美結も透もきっといなくなってしまう。


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