そして、朝が来る
その願いすらも絶たれて、私はこうして屋上に来たのに。
「どうして今になって、私の前に来るの……っ!」
昔話には続きがあった。悲しくて辛くて、泣くのにも疲れてしまうほどの、誰も救われないような続きがあった。
「お話には続きがありました、漸く救われた少女をまた絶望の淵に落とすような続きがありました!」
「……ヒカリ」
「少年は少女を先にフェンスの向こう側へ行かせました、あとから少年がフェンスを登ろうとした時、屋上へ大人が飛び込んできました! 少年と少女は大人の登場に驚いて、少年は、フェンスを掴んでいた手を、離し────っ」
「ヒカリ!」
立ち上がったヒカルが、私をじっと見つめてくる。どうして、と叫ぶと、私はヒカルに駆け寄ってその身体を抱き締めようとした。
彼の身体に、ぶつかる。幽霊でも触れられるのか、と驚きながら、私は構わずにその胸に顔を埋める。聞こえてきた鼓動に、今度こそ驚いた私はぱっと顔を上げると、ヒカルが優しく私の頬を撫でた。
「ごめん、ヒカリ」
「ど、して……?」
「ちゃんと、続きがあるんだ」
聴いてくれる、と問いかけてきた彼に、私は反応できないまま顔を見返した。それに笑ったヒカルは、私の頭に手を置いて、お話には続きがありました、と続けていく。
「少女がまた死のうとしないように、少年は少女を先にフェンスの向こう側へ、本来居るべき側へと戻しました。少女がちゃんとコンクリートの床へ足をつけたのを見て、少年も戻ろうとフェンスに手をかけて登り始めました。その瞬間、どうやら少女たちが屋上にいるのを見た大人が、屋上の扉を勢いよく開けました。驚いた少年は、思わずフェンスから手を離して屋上から落ちてしまいました」
逃げるように目を逸らした私を、優しく彼が見つめる。ぐっと唇を噛み締めた私の頬に手を添えて、彼はいつの間にか流れ落ちていた私の涙を一粒一粒掬い上げる。
「少年はアスファルトの地面に叩きつけられて意識を失いました。落ちた瞬間、少年は死ぬのだと思いました。少女に一緒に生きようと約束したのに、死んでしまうのかと自分を責めました。そして、少年が目を覚ますと、そこは病院でした。死んだと思っていた少年は、実は心臓は一度止まったものの、何とか持ち直して生き永らえたのだということを、医者からの話で知りました」
ごめん、と彼がまた呟く。どうして、とまた問いかけると、彼は私の肩に顔を埋めた。