そして、朝が来る
「本当は、もっと早くに会いに来たかったんだ」
ごめん。本当に、ごめん。約束を守れなくて、また君をここまで追い込ませてしまって。
「少年はすぐに少女に会いに行こうとしました。約束を守らなければ、とそれだけが頭の中を占めていました。退院してすぐに少女に会いに行こうとした少年に、母親が言いにくそうな顔で少年の名前を呼びました。そして、少年にとってとても残酷な現実を告げました。少女は少年のあとを追って死んだ、と」
「……っ」
「少年は信じられない思いでそれを聞きました。母親は少年に言い聞かせました。もう少女とは会えないと。だからこのことは忘れなさい、と。少年は引っ越しました。少女のところへはいけないまま、少年は生まれ育った街を離れました。それでも少年は少女のことを忘れることができませんでした。七年経って、少年はひょんなことから少女が生きているということを知りました。やっぱり少女は生きていたのだと、少年は少女に会うために家を飛び出しました。少女は引っ越していましたが、近所の人へ話を聞けばそう遠くない場所に住んでいることが分かりました。そして、少年は、とあるアパートの屋上に、少女が立っているのを見つけました」
その先は、ヒカリも知ってる通りだよ。
「ごめん、なさい……っ」
私のせいで。私があんなことをしなければ、君は屋上から転落することもなかったし、こんなに長い間、君を縛り付けておくこともなかった。
ヒカリのせいじゃないよ、と彼は言う。ふるふると首を振って否定する私の頭を抱き込んで、違うんだ、と諭すように。
「むしろ、俺の方がヒカリに酷いことした。一緒に生きようなんて言ったくせに、七年も放置した。だから、また一緒に生きよう、なんて言えなかったんだ。だから、ヒカリがもし死を選んだとしても、俺にはそれを嘆く資格なんてないと思った」
「そ、んなことないっ」
興味ない、と言ったことを言っているのだということに気付いて、私は強く否定する。私だって、と奥底に押し込めた記憶を引っ張り出すと、続きがあるの、と切り出す。
「少女は少年が死んだのだと思いました。屋上で呆然と座り込んだまま放心している少女を、両親は家へ連れて帰りました。そして数日後、両親は少女に、少年は死んでしまったのだと言いました。少女は少年に会うことも出来ないまま、ずっと日々を過ごしていました。幸い、少年と少女は同じ学校ではなかったために、少女の同級生では事故のことを知っている人はほとんどいませんでした。いじめのことを知った両親は、引っ越しはしたくない、と言った少女の意を汲んで、転校だけできるように手続きをしてくれました」