透明人間の色
それなのに、私は達也を諦めなければいけない。
怖い。嫌だ。やめたい。
まだ、引き返せ___ないや。
「着いちゃった。ここだよ」
美術展が開かれているビル。
「着いちゃったって、そんなに今日が惜しいのか?部活引退した身だから結構ヒマだし、またいつでも来れんだろ」
「それは、___達也しだい?」
「なんだよ、ムカつくな。美香こそ、俺に愛想つかされないように、な」
「………」
私は不覚にも黙ってしまった。
そうだねって返せば良かった。なのに、言葉が出てこなかった。
こんなやり取りは、今日一日中やってきたこと。
今さらだ。今さら過ぎる。
でも、この瞬間言葉よりも先に、思ってしまった。
愛想つかされるなんて、冗談キツい。
達也の言う“また”なんて、きっともうないのに。
それが、私が好きになった絶対的正義の達也だから、仕方がないんだけど。
ないんだけど。
「美香?」
「入ろ」