透明人間の色
「私が転校してきた日、覚えてる?」
「んな、昔のこと覚えてねぇよ」
「私も」
私が達也のいる小学校に転校してきたのは、確か小学二年の時。
今とそんなに変わらないけど、私は無口で転校して半年しても多分友達なんていなかった。
「でも、いつだったかは分かんないけど、達也と友達になったことは覚えてる」
そう笹本達也以外の友達は、私にはいなかった。
元々、私は内気なタイプだった。
前の学校でも覚えてないけど、友達なんていなかったはずだ。
「それ、学校の帰り道じゃね?」
「あっそうかも」
達也と私の家は斜め向かい同士で、帰り道はよく一緒になったはずだ。
達也はきっと内気な転校生に臆しもせず話しかけたのだろう。
それから、私のなかでの達也の絶対化が始まった。
「達也はさ、なかなか友達の出来ない私のために、色々やってくれたよね」
「えっ!バレてた?」
「バレるよ」
隠し事が下手な真っ直ぐな達也。
内気で友達がいなくて、他人の心の機微に敏感になっていた私。
それは天と地ほどの差があって、それでも私は気がついたら達也が好きで仕方がなくなっていた。
だって、達也は私にとってヒーローみたいなものだったから。
誰にでも優しくて、気さくで、末端の私のために奮闘する達也の姿は、ヒーロー以外のなにものでもなかった。
多分、それが恋と名のつくものだと分かったのは、小学五年の冬くらいだったと思う。