透明人間の色
3 いつかの夏になかった未来
ビルの影で私は待った。
あの偽悪的な彼が来ないはずはないと信じていたかったから。
でも、通り過ぎていったのは、泣きそうな顔の達也だった。
私を追いかけては来なかった。
それもきっと、達也が弾き出した優しさなんだろう。
分かってたよ。
六年が経とうとしているあの夏の日から。
もっと言いたいことがあった気がするけど、上手くいかないものだ。
達也を前にして全部吹き飛んでしまう。
でも、最後に好きだよと伝えるのは酷いだろう。
どれだけ伝えたくてもそれはしまって置こうと思った。
代わりに涙は止まらないけど。
「来ないか」
三十分ほどか待ち続けたけど霧蒼は現れない。
もうすぐしまってしまう美術展。
そこには窓の絵ともう一つ、私の作品が飾られているのだ。
そっちは霧蒼に見てもらいたかった。
今日、今すぐに。
私はビルの中に引き返した。