透明人間の色
それは霧蒼に描いた絵そのものだった。
達也とは真逆で部屋の中に綺麗な世界があって、窓の向こうに正義だけがある絵だ。
そして、霧蒼はその絵の中の正義側を漂っている、らしい。
こんなことって、ある?
やはりこれは夢なのかもしれない。現実の私はまだ外にいて、こんな夢を見るほど霧蒼のことを待っているのかも。
『絵の中?あー、そうかもしれない』
「あり得ない」
『全く同感だよ。こんなことあっちゃいけない』
「でも、夢の中だとしても、あなたはやっぱり来てくれる」
『まあね。後でなんか言われるのは面倒だ』
「そう言うと思った」
決して霧蒼は私のためとは言ってくれない。
『閉館まであと五分だ』
「うん」
『言いたいことがあるなら言え』
「………」
言いたいことなんて、たくさんあった。
でも、五分なんかじゃ、あり過ぎるからどうにもならない。
だから私は一番聞きたいことだけ、聞くことにする。
「じゃあ、質問していい?」
『僕は答えないかもしれない』
「簡単なことだから」
『またイエスノークエスチョン?』
「そう」
『ふーん。じゃ、どうぞ?』
私はぼやけた絵と向かい合った。
すごくバカらしい質問をするために。
「その窓は開いてる?」