透明人間の色
「霧蒼、やっぱりもう一つ聞いていい?」
『ダメって言ったら?』
「…言わないでしょ」
『自惚れだよ、それは』
「私だから答えてくれるとか、そんなこと思ってるわけじゃない。霧蒼だから答えてくれると思ってる」
『僕は正義じゃない』
「そう?」
『そうだよ』
いつも不機嫌そうではあるけれど、なんだか今のは投げやりだ。そんなに、正義と言われるのが嫌だったのか。
「じゃあ、正義じゃない霧蒼。あなたは私の何に期待してたの?」
『………それ、聞いて何になるの?』
「分からない。知りたいだけ」
『じゃあ、言わない』
「聞いて何かになるんだったら、言ってくれるの?」
『さあね』
私の言葉は曖昧だけど、霧蒼だって大概は曖昧だ。
物事について白黒はっきりつけるのを、私は好まない。
霧蒼もきっと好まないんだろう。
だからといって、意見がないとか、自分がないとかそういうんじゃなくて、ただ物事の定義の無限性を知っている。
当たり前は当たり前ではなく、知ってるものが知らないものかもしれないという風に。
例えば、目の前に赤い物体があって、それは明らかにリンゴの形をしている。普通はそれを人はリンゴだと指を指すんだろうけど、私たちはそうしない。
リンゴがリンゴではない可能性を常に感じている。
自分自身の答えでさえも、答えではないのではないかと、疑っている。
そんな人の言葉を私は信用したい。