透明人間の色
「美香ちゃん?」
目を丸くして俺は隣の座席に黙って座る彼女を見た。
もちろん、何があったかなんてとっくのとうに知っていた。
だから、この質問に彼女が素直に答えるはずもないことも、俺は知っている。
だけど、それでも俺は彼女が甘えてくることを、期待せずにはいられない。
彼女のどこが好きなのかと聞かれたら、俺は少し困るんけど、途方もなく彼女が好きなのは確かだから。
まあ、最初はただ、あることを証明して欲しかっただけなんだけどね。
でも、美香は俺のそんな期待なんて気にした風もなく言う。
「…晶人さん、マンションの方でお願い」
分かってた。
分かってたけど、ダメだ。
いつもの事なのに、今は甘えてくれないことにイライラする。
「なんで?こんな日くらい帰ってきなよ」
「………明日も用事があるの」
用事。
俺は少し不安になった。
美香を迎えに行く直前の報告では、美香が誰もいない展示室で、霧蒼に向かって話しかけていたという。
話の内容は録音してあるというから後で聞こう。
美香を送った後、様子を見たはずのあいつに俺は話を聞いた方がいいかもしれない。
もちろん、マンションに帰った美香の見張りもつけなければならない。