透明人間の色



「全くこんな所にいるなんてね。いつも言ってるけど、手間はかけさせないでよ」


「紫様」

美香の作品が展示してあるブースに彼女は立っていた。俺の声に振り返っても、謝ることなく俺に微笑む。


こいつは俺の駒だが一番扱いにくい。


「で、美香ちゃんに何があったの?」

「何でしょう?私にもよく分かりませんね」

そう小首を傾げてもらっても、俺が腹を立てるだけなのは、こいつも知っているはずだ。
なのに、毎度毎度よく飽きずにこんな態度を取る。最近では俺ももう諦めていた。


しかし、本当はこいつだって優秀なのだ。


だから、美香の見張りに選んだのに、こいつは美香のことになると途端に面倒臭くなる。その理由も大体分かってきた。

気持ちだけなら捨ててしまいたい駒だ。だが、この時期に手放すには惜しい人材。


決定的なことをしない限りは、見逃すしかない。


仕方なしに、俺はため息をつくようにその名前を呼んだ。


「破名」


普段なら、殴りかかるがごとく、その制服の襟を掴んだだろうが、言葉に止めたのは、気まぐれ。

いや、ただ今日は疲れていたのかもしれない。

言うことを聞かない駒を睨み付ける気力もなかったということだ。




「私は花です」



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