透明人間の色
全く、最近はこいつからその言葉しか聞いていないような気がする。
呼ぶときの発音なんてどっちでも同じなのに、なぜかこいつは破名と呼ばれることに異論ができたらしく、三日前くらいに会った時も、そんなどうでもいいことを言っていた。
「同じじゃないか」
「違います」
「あっそう」
心底どうでもよい話だ。
それでも、俺は牽制の意を込めて面倒ながら言わなくてはならない。
「でも僕が与えた名は、名の破滅の方であって、可愛いお花じゃなかったはずだ」
「では、改めて可愛い名前で呼んでください」
「なぜ?」
「………さあ、なぜでしょう?」
挑戦的な目。
八割くらい本気でそんな目など潰してしまおうと思った。だが、残り二割に傾く方が賢明ではある。
こいつもそれが分かっていて、こんなことを言っているんだろう。
まるで、自分の存在価値をはかるような言動。
分かっている。
こいつの鳥籠を作ったのは俺で、そうさせているのも俺だ。
たぶん、鳥籠の鳥の価値とは、飼い主にどれだけ必要とされているかなんだろう。
飼い主が毎日餌をくれるとか、どこまでの好き勝手だったら自分は捨てられないのかとか、そんなことでしか存在価値を確かめる術がない。