透明人間の色
「で?」
「東城美香は今日笹本達也というクラスメートとデートだったみたいです」
「ああ、あの幼なじみくんね」
笹本達也。
美香の口から出てくる名前の中で一番を独占している奴だ。
まあ、美香は交流範囲が極端に狭いからというのもあるけど。
「それで?」
「はい、まあデートのことは紫様なら既に把握していることでしょう」
「うん」
「聞きたいのは二人が泣いてここから出てきたことですか?」
「うん」
「………やはり見張っていたんですか?」
「まあね」
笹本達也とデートなんて、美香らしくない。
だから、何かあるとは思っていた。
だからといって、初めからそうしようと思っていたわけじゃない。
本当はこいつに全て任せるつもりで、見張る予定なんてなかった。だけど、気がついたらこのビルの前に車を止めていた。
我ながら、過保護だと思う。
「会話の録音テープです。私には判断しかねます」
「そんな難しいこと言ってたの?」
そう訊ねると、彼女は少し黙ってこちらを真っ直ぐ見た。
「…なに?」
何かを躊躇している彼女に面倒と言わん限りの声を出す。
だから、彼女は機嫌が悪くなるかと思った。
なのに、違った。
なんだか苦しげに歪んだ彼女の顔。
「___笹本達也を絶対的正義だと言っていました」
俺は録音テープをその場で再生した。
そこには居るはずのない霧蒼に話かける美香の声も入っていた。