透明人間の色
「みかー」
楓の元気のいい声が不意にこちらまで聞こえてくる。なんてタイミングのいい奴だ。
私はそう思いつつ手を振り上げてそれに答えた。
そうすると一段と張り上げた声で、楓はとんでもないことを言った。
「一番最後に店に着いた奴が、おごりだからねー」
楓にしてはよく考えられていた言葉だったから、きっと言い出したのは達也だろう。
さっきまでの楽しそうな二人は、私のことを考えていたのだ。
そう思うと、駄目だった。
二人から開いた距離を駆け出す。
私のこの退屈な、でも平和な日常はまだ続くらしい。
それはどうしようもないことだった。
こんな日常を私は愛しく感じてしまうんだから、本当にどうしようもなかったのだ。