透明人間の色
「泣いてないよ」
『嘘つけ』
「嘘じゃないもん」
涙が溢れたのは、自分の汚さから目をそらすため。
浄化して忘れてしまうため。
こんなズルい涙は誰にも知られてはいけない。
少なくとも達也くんだけには知られたくない。
泣きたいのは、達也くんなのに。
達也くんがフラれたことに内心ホッとして、そんな自分が嫌で、どうしようもなく逃げている私とは百八十度違う。
こんなにも自分が苦しい時も私の電話なんかに出て、ちゃんと相手をしてくれて。
美香のことが大好きな達也くん。
美香に似合うのはこんな人だ。
少なくとも私なんかじゃない。
苦しい、苦しい、苦しい。
苦しいことなんて何一つないのに。
なのに、苦しくないことが苦しい。
何も役に立たないクズなくせに、性格も救いようもないくらいブスな私は、優しい人、頑張れる人をひがむ。
そんな自分の嫌なとこから全力で目をそらしているのに、苦しい。
中途半端ないい子ちゃんは
苦しい、苦しいと泣けば
『おい、泣くなよ。俺に同情してんのか?………まあ、たぶん今まで通りってだけだ。んな、気にすんなよ。俺のために泣いてくれてありがとな』
全て許されると知っている悪い子ちゃんだった。