透明人間の色
だから、その私みたいな服を買った。
選ばれることのないその他大勢に埋もれた私みたいな子を、拾ってくれる誰か。
そんな人になりたくて、美香みたいになりたくて、私は服を意味もなくたくさん買う。
でも、所詮私は美香じゃないから、結局価値を見いだしてあげられない。
なら、選ばなければいい。
そう思えるかどうか、それが美香と私の大きな違いなんだと思う。
私は後先考えず、良かれと思ったことをするけど、美香は無責任な優しさは嫌いだから。
どんなに憧れても、美香にはなれない。
私はそう結論づけて、てきぱきと選ばれし服に着替え、キッチンで朝食のトーストを焼いた。
一晩寝てしまえば、心の整理もだいぶついていた。
きっと、達也くんは美香にフラれて、しかも私なんかに怒鳴られたから、八つ当たりで意地悪なことを言ってしまったんだ。
たぶん、達也くんは優しいから、美香に何かない限りは私を嫌わない。
だから、今日美香が改めて達也くんと付き合うってなれば、全て解決する。
それがいい。
私の優しさはどこまでも無責任だから、寂しくなれば、二人の間に少し割って入るくらいは厭わない。
トーストはいつも通りの味だった。
いつも通りがどれほど素晴らしいかは、私もよく分かっている。
いつも通りというのは美味しい。
そういうことだ。