透明人間の色
車が止まった先には、泣き叫んでいる女の子とその女の子を抱きしめようともしない女の子。
朝五時にしては、壮絶な光景だ。
「………出せ」
「いいんですか?」
ドンッ
気を効かせたつもりでそう言ったのに、自分の席が蹴られた。
全く、このクソ主が。
もう慣れてしまったから、そんな座席を蹴られただけでは動じない。
このクソ主に文句の一つでも言ってやってもいいとも思う。
けれど、これ以上何か言うのは得策ではないのだろう。
小さかったはずの自分の主は今、己の繊細な想いと戦っている。
自分が横槍を入れて解決するものではない。
それに、自分としては、“友達をやめる”宣言を平気でするようなヘンテコな彼女と、いや、紫と関わり深い彼女とこれ以上関わりを持って欲しくなかった。
だから、席を後ろから蹴られたのは不本意だったが、アクセルを踏んだ。
命令に従った自分にクソ主はそれきり黙った。だが、自分は沈黙が苦ではないから気にしたことでもない。
それに、考えてることなんてものは、手に取るように分かる。
そう。
こういうところが、自分の主はやはりまだまだガキだ。