透明人間の色




自然と自分の口の端がゆるむのが分かった。

沈黙は嫌いじゃないが、主が自分にしゃべろと言うのは、その、うん。


とてもよろしいことだ。


「では、最近ハマっている少女漫画の話をしましょうか?」


「やだ」

「では、名台詞トップ10をお話しましょう」

「………あんなのの、どこがいいんだ?」


眉を潜める主にクツクツと自分は笑った。


「そうですね、やはり女の子が可愛いことですかね」

「………可愛い」


「ええ、真っ直ぐで、不器用で。とても可愛いですね」




「___お前、誰の話をしてるんだ」


少女漫画の架空の主人公の話をしているのに、主が低い声を出して威嚇するので、また笑ってしまう。



「蒼様こそ、誰の話を?」



そう流し目でミラー越しに見た自分の主は、意表を突かれた顔をしている。


「蒼様が真っ直ぐで、不器用で、可愛いと想われているのは、誰のことでしょう?」


ちょっとした意地悪だ。

日頃蹴られている恨みを返したと思えば、正当だ。むしろ足りない。


「別に。そんな奴いない」

「本当ですか?」


ドンッ
その衝撃と共に、冷たい声が浴びせられた。


「しつこいぞ」




そんなことを言っても、少しだけ赤い主の顔は正直だ。


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