透明人間の色
「…そんなの気まぐれだ」
「蒼様の気まぐれを起こさせるなんて相当ですよ」
「………」
車のエンジン音だけが、車内で息をしているような気がする。
張りつめた雰囲気の中で、自分も主もお互いの言葉を噛みしめてみた。
気まぐれ。
自分たちの辞書にはないような、まるで似合わない言葉。
計算に計算を重ね、策略に策略で返す
そうやってずっと生きてきた自分たちの人生には、一つだって気まぐれなんてものはなくて。
偶然なんて存在しなくて。
奇跡なんかなかったはずだった。
そう考えてみると、自分と同じように、自分の主だって今の感情をもて余しているんだと思えて。
何もかもバカらしくなった。