透明人間の色



「…そんなの気まぐれだ」


「蒼様の気まぐれを起こさせるなんて相当ですよ」


「………」


車のエンジン音だけが、車内で息をしているような気がする。

張りつめた雰囲気の中で、自分も主もお互いの言葉を噛みしめてみた。

気まぐれ。

自分たちの辞書にはないような、まるで似合わない言葉。



計算に計算を重ね、策略に策略で返す


そうやってずっと生きてきた自分たちの人生には、一つだって気まぐれなんてものはなくて。

偶然なんて存在しなくて。


奇跡なんかなかったはずだった。


そう考えてみると、自分と同じように、自分の主だって今の感情をもて余しているんだと思えて。




何もかもバカらしくなった。


< 158 / 248 >

この作品をシェア

pagetop