透明人間の色
今度の展示会の作品とか楓とか達也とかのこと考えていたら、すっかり晶人さんのお願い忘れてた。
「あー」
晶人さんが困ったように笑う。
「美香ちゃんに頼むようなことじゃないし、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない。急ぎなんでしょ?」
「えっと………まあ」
「ごめん。一週間以内に見つけるから」
そう言いきった私に晶人さんは複雑そうに頷く。
「食べよう。ご飯冷めちゃうよ?」
「うん」
いつもの高級ホテルの地下、完全会員制レストランの小部屋で私たちは、二人っきりで夕食を美味しくいただいた。
「そういえばさ」
「うん?」
「イケメンってどのくらいのレベル?」
またからかってるのかと思われそうだけど、これは真剣な質問だった。
だってイケメンと騒がれている人も、所詮小綺麗に着飾っているだけで、顔は実はそんなにイケてない人だって結構いる。後ろ姿だけイケメンとか。
逆に言えば、目立たないがよく見ればイケメンっていう人だっているのだ。
「美香ちゃんが思うイケメンでいいよ?」
「………それって、晶人さんと似てる人連れてこいってこと?」
「あははー、やだなー美香ちゃん。そんな人連れてきたら泣いちゃうよ?」
「は?」
「美香ちゃんのオンリーワンでナンバーワンがいいからね」
出た。何を考えてるのか分からないほどの甘い言葉攻撃。
「晶人さんに聞いたのがバカだった」
「うん。そうかもね」
私のぼやきをふんわりと微笑むことでかわす晶人さん。
「ねぇ」
「うん?」
「そろそろ、本当の誕生日と何歳なのか教えてよ」
そんなことを聞くのは、この男のことを私は三年一緒に寝起きしていたのに、本当はほとんど何も知らないから。
でも、決して私が知ろうとしなかった訳ではなくて、
「えー。………やだ」
「やだって、なんで?」
「なんか」
知られることを異常なまでに晶人さんが嫌うからだ。
しかも、その理由さえ教えてくれない。
だから何度も不安になる。
五年前突然現れた晶人さんが、なぜ私を好きになったのか、好きでいてくれるのか、何の根拠もないから。好きと言うけど私の全てが好きってなんだろう?
私は全てを愛され、許されるほど綺麗ではない。