透明人間の色
確かにこの時俺は厄介払いするために、あの人にそう答えたけど、今となってはそれは紛れもなくあの時の俺の本音だったんだと思っている。
親はその時事実上離婚していて、別々になったときにはそれぞれ浮気相手の元へさっさと行ってしまった。
俺はどっちにも付いてこいと言われなかったし、どっちも多分ついてくんなと思っていたんだと思う。
それを引き取ってくれた祖母は優しかった。本当に普通の人で、親みたいに道を踏み外したりしない人だった。
今でも俺を引き取ってくれたことには感謝している。
だが、残念なことに少しだけ彼女はおしゃべりだった。
例えば、ご近所に俺のことを聞かれると聞いてもいないのに、俺の親のサイテーさを散々に喋って、その後は必ず行き場のない俺をもらってあげた自分のちょっとした苦労を話した。
そう、若い男の子は年寄りには難しいという何でもない話なんかを。
そんなことは気にしない。そう思ってた。なににせよ、俺を引き取ってくれた人だ。
祖母はおしゃべりが好きなだけで、本当は優しいのだと何度も言い聞かせた。
同級生に親のことがバレて、そのことでいじめられても、俺は自分にそう言い聞かせた。
代わりに、少しでも祖母の苦労話が減るように、勉強は死ぬ気で頑張った。
模試の全国順位だって、毎回百番以内には入っていた。
けど、祖母は苦労話を止めなかったし、俺へのいじめも終わらなかった。
その時のケンカだって、俺がふっかけてきたんじゃなく、同級生が勝手にふっかけてきたものだ。
俺だってただされるがままに、いじめられていたわけじゃない。
けど、その頃の俺には一人で五人の相手をすることは敵わなかった。
汗だか血だかが目に染みる。
世界は綺麗か?
とんだふざけた質問だった。