透明人間の色
3 日常の崩壊音
「楓」
お弁当を持って嬉々として私の目の前に座った楓が、さらに目を輝かせた。
「なに美香っ⁉」
「えっ………呼んだだけなんだけど」
「なにその漫画みたいな展開。美香イケメンさんだよー」
「どこにイケメン要素があったの?」
その質問に楓はうっとりとした目で手なんか組んで見せる。
「イケメンがねヒロインの名前呼んで、ヒロインがなにって振り返るの。そしたらだよ、呼んでみただけって。きゃー、かっこいいー。ヤバイ。ヤバイよ。ねえ?」
詰め寄るように私の手が握られそうになって慌てて避ける。それに不貞腐れた楓はまた座った。
そんな顔されてもこんなクソ暑い日に手なんか繋ぎたくない。
「美香も漫画読んだらいいのに。面白いよ?良かったら明日持ってくる?」
「ふーん。でも、明日はいいや」
「またそんなこと言って、明後日も断るんでしょ?」
ここでいつもなら頷くところだが今回は違う。
「いや、荷物明後日少ないから明後日借りたいかも」
「えっ!」
「駄目?」
「だっ、駄目じゃない。持ってくる。持ってくるよ!」
「ん。ありがとう」
楓は私がそう言ったことに驚きすぎて、言葉もでないようだった。まあそんな驚きを隠そうともしない楓は扱いやすくて好きだ。
「美香も興味あったんだ………」
「うん。呼んでみただけとか、生産性のない台詞を吐くような人がイケメンなんて、ちょっと気になる」
「生産性?」
楓は小首を傾げたが、私の目線はその前に楓の後ろに立つ人に移っていた。
「無意味つーことだよ。楓」
「あっ、達也くん」
炭酸ジュースを片手にこっちの話に入り込んできた達也。私は無意識に唇を噛んでいた。
正直、達也は今一番この場にいて欲しくない人物だった。
「でも、それを言うなら美香もなんでそんな生産性のない話に食いつくんだよ?イケメンとか………マジで興味あんの?」
ほら、やっぱり。
「JKだから?」
笑って見せるとますます不快そうに達也が眉をひそめる。
ああ、久しぶりに少し面倒事が起きそうな予感。
「だから___将来の夢が金持ちのババアっていう奴が食いつく話じゃねぇって言ってんの」
「金持ちのババアだってイケメンは好きよ………たぶん」
ほら、ただの冗談でしょ。だからお願い達也。笑ってそうだなって言ってよ。
でも、達也は私の気持ちなんておかまいなしに、私の願いとは真逆なことを口にしてしまう。
「じゃあ、美香。俺は?」