透明人間の色
「ならっ………」
「でもね___」
含みを持たせて晶人はその長身を少しだけ屈めて、笹本達也に合わせた。
「どんなに“好き”でも、絶対“必要”じゃないんだったら、意味はない」
余裕綽々の楽しむようなその瞳。だが、それでも笹本達也は楯突いてみせた。
「なんだよそれ」
けれども、笹本達也など相手にもならないとでも言うように三日月のような口元が尖った刃のような言葉を紡ぐ。
「分かんないかなー」
それは諭すような、バカにするようなそんな響きで、
「今美香ちゃんの隣にいるのは、結局君じゃないってことだよ」
そう言いつつ笹本達也の髪をくしゃりと撫でると、そのまま背を向けて二度と振り向かなかった。
小野楓は笹本達也の姿を見ていることが出来なかった。けど、その場を離れることもしなかった。
笹本達也が不意に「帰ろう」とそう言ったとき、初めて一つ頷くと、その日のことはまるでなかったように、でも夏休みが明けるまで二人は一度も会うことなく、独りぼっちの時間を過ごした。
二人は多分たくさん考えただろうが、答えのあるような内容ではなかったんだろうと思う。