透明人間の色
夏休みが終わって数日経ち、高校三年生は受験のために毎週一回は模試の地獄へと突入し、一喜一憂する。
でも、そんなことは私には関係ない。
本当は高校なんてものは、行くはずもなかったところなんだし。
けど、あの東城美香とかいう女のせいで、私は今日も美術室で紫に褒められることのない絵を描いてる。
私はこれを軽い左遷だと思う。
いや、“思いたい”の間違いか。
実際のところは、紫があの東城美香という女をそれだけ大切にしているというだけで。
これはあの女の見張りに左遷されたのではなく、抜擢されたという方が正しいというわけだ。
紫に左遷されるのと、あの女に負けるの、どちらが嫌かと聞かれれば答えに困るけど。
何はともかく、今まで私はたくさんそういったことも我慢してきた。
だけど、今回だけは無理だ。
日本改造計画が進行する中、あの女も来ない美術室で絵を描いてるのは、さすがにプライドに傷がつく。
だから、紫にあの女が来ない日は私だって来なくていいじゃないかと抗議した。
が、美術室にあの女の友達が訪ねてくるかもしれないからと聞かないんだから仕方がない。
だが、夏休みが明けて待てど暮らせど、そのお友達やらが来る気配もないし。
「………っ」
自然と持っていた筆が乱れた。
あの女は今、紫の側にいるんだろうか。
一緒にいるとしたら、いったい何をしているんだろう。
乱れた筆が呪いの言葉を書きなぐる。
「はぁ」
目の前に文字となって表れた自分の感情。行き場をなくしたそれ、渦巻く黒い感情に押し潰されそうになる。
決して消えない油絵の具で書かれたそれを破り捨てそうになる。
そんな衝動を抑えて、私はダメになったキャンパスをきちんと片付けるため、筆を置いた。
その時だった。