透明人間の色
だからといって、その感情をこんな価値のない女にぶつけたって仕方がない。
「どうぞ、おかけください」
広がる感情はおくびにも出さず、それでも私は微笑んで見せた。
私は悪だから。
本当は“花”じゃなくて、“破名”だから。
「あの、貴女に会えば美香と仲直りできるって、そう聞いたんですけど………」
「そうですか」
それだけ言って微笑み続ける私に、小野楓は混乱したように、黙って探るようにこちらを見る。
が、そんなものは怖くない。
私に唯一怖いことがあるなら、それは紫に関してだけ。
今までもこれからも、ずっと。
「あのっ」
しばらくすると、堪えられなくなった小野楓が声を上げる。
「貴女が仲直りさせてくれるんですか?」
必死に言葉を紡いでいますよとでも言うような、その握りしめた小さな拳が視界に入った。
ため息が溢れそうになる。
この女はそんなにあの女がいいのだろうか。
この女は、拾ってくれる人であれば誰でも良かったんじゃないの?
だって、東城美香にこだわる必要なんて一つもないはずだ。東城美香と出会う前と同じように、生きていけばいい。
簡単なはずだ。東城美香が笹本達也を振ったという噂を流せば、小野楓は仲間に入れてもらえる。
そうやってこの女は、純粋なフリをして、都合のいいように人を裏切り続ければいいと思う。
どうせ、どうしたって友達なんてものは入れ代わっていくんだから。