透明人間の色



「どこまでって………?」


戸惑ったように頬をひきつらせる小野楓。

私はまた男ウケは良さそうで女ウケ悪そうな顔だと、卑屈っぽくそう思った。


「そうですね。………今から時間ありますか?」

「えっと…はい、大丈夫ですが」

「では、案内したい場所があるので付いてきてください。時間もないことですし、もう行きましょう」


「え?」

呆気にとられて動けないでいる小野楓を放っておいて、絵の具の筆を水に突っ込む。洗おうとは思わなかった。


明日まで放置したところできっとこの筆は問題ない。


脇に置いたリュックを掴むと、まだオロオロしてる天然ぶりっ子が目に入ってきた。不可抗力だ。

だが、その表情、行き場を無くしたような手が鬱陶しい。筆でさえ最低限のことをすれば放っておいていいのに、この女ときたら。


ああ。
それとも、それも不可抗力だ、とこの女は言うだろうか。


いや、不可抗力だ、などと図太いことは言わない。そんなつもりなかった、そう言うのだ。こういうタイプは。


そう考えたとき、ふとチラリと脳裏を過る顔。



東城美香だったら、どう答えるだろう。



それさえ分かれば、私は紫の一番だったはずなのに。



「ムカつく」

気がつけば口をついていたその言葉。


小野楓の肩がビクッと跳ねる。

だけど、そんなのイライラするだけ。この女をいじめたところで、良い気味と笑えるような爽快感なんて生まれやしない。


でも、きっと東城美香をいじめるのは多分爽快だ。


弱いものいじめする奴は、弱いやつ。でも、私は違う。そんな奴らなんかと同じじゃない。


こう言うと、自分が偉いと主張したいバカに思われそうだけど。


でも。

それでも、これは驕りじゃない。


自虐だ。


< 212 / 248 >

この作品をシェア

pagetop