透明人間の色
「どこまでって………?」
戸惑ったように頬をひきつらせる小野楓。
私はまた男ウケは良さそうで女ウケ悪そうな顔だと、卑屈っぽくそう思った。
「そうですね。………今から時間ありますか?」
「えっと…はい、大丈夫ですが」
「では、案内したい場所があるので付いてきてください。時間もないことですし、もう行きましょう」
「え?」
呆気にとられて動けないでいる小野楓を放っておいて、絵の具の筆を水に突っ込む。洗おうとは思わなかった。
明日まで放置したところできっとこの筆は問題ない。
脇に置いたリュックを掴むと、まだオロオロしてる天然ぶりっ子が目に入ってきた。不可抗力だ。
だが、その表情、行き場を無くしたような手が鬱陶しい。筆でさえ最低限のことをすれば放っておいていいのに、この女ときたら。
ああ。
それとも、それも不可抗力だ、とこの女は言うだろうか。
いや、不可抗力だ、などと図太いことは言わない。そんなつもりなかった、そう言うのだ。こういうタイプは。
そう考えたとき、ふとチラリと脳裏を過る顔。
東城美香だったら、どう答えるだろう。
それさえ分かれば、私は紫の一番だったはずなのに。
「ムカつく」
気がつけば口をついていたその言葉。
小野楓の肩がビクッと跳ねる。
だけど、そんなのイライラするだけ。この女をいじめたところで、良い気味と笑えるような爽快感なんて生まれやしない。
でも、きっと東城美香をいじめるのは多分爽快だ。
弱いものいじめする奴は、弱いやつ。でも、私は違う。そんな奴らなんかと同じじゃない。
こう言うと、自分が偉いと主張したいバカに思われそうだけど。
でも。
それでも、これは驕りじゃない。
自虐だ。