透明人間の色
私がやりたいのは、弱いものいじめで自分が偉くなるなんてことじゃない。
自分より偉いやつを蹴落としてホッとしたい。
それだけ。
ある程度まで極めれば分かる。自分が戦って敵う相手と、敵わない相手がいること。
大抵の場合は、敵わない相手だと分かった時点で諦めればいい。
けど、どうしても譲れないものがあるとき、人は正統的には落とせない相手に汚い手を使う。
それが東城美香に対しての私だ。
笑えばいい。
けど、東城美香という絶対に勝てない存在が、よりによって私の道を阻むから、邪魔で仕方がないんだ。
そう。私は確信がある。
私は東城美香には勝てない。
それを証明するかのように、私は今ここにこの女といるわけだし。
ああ、なんだか今日の私はいつにも増して、もしかしたら雨雲よりも嫌な奴になっているかもしれない。
やだやだ。
そう思いながら私は気まぐれに“ムカつく”発言を撤回した。
「ごめんなさい、美香にムカついてしまって。口に出てた」
イタズラっぽく笑って見せると、小野楓も笑った。
「よく分かります。美香ってムカつく」
その少し寂しげなものを含んだ言葉に、やはり私は東城美香が嫌いだと思った。
なんで東城美香ばっかり、“あなたじゃなきゃダメ”と言ってくれる人がいるんだろう?
ホント、ムカつく。
「さあ、行きましょう」
そう言った私の口角は少し上がっていた気がする。
もう少しで勝てる相手なら笑えないけど、人は敵わないと分かると、ムカつくけど、それと同時に呆れにも似た感情で笑ってしまうのかもしれない。
我ながら屈辱的な笑みだ。