透明人間の色
なんだか、裏切られた気分になって、僕は紳士的じゃないけど彼女の言い分は無視して、やけくそに聞いた。
「僕の名前は?」
「知らないわよ」
ほら、名前なんてどうでもいい。
「じゃあ、名無しのゴンちゃんで。君は?」
「えっと、小野楓です」
その響きは最近どこかで聞いたことがある。
少し考えて僕は先日紫から送られてきたメールを開いた。
といっても、暗号化されていて、一見バグに見える文字列でとてもメッセージ感はないんだけど。
「あった。そっか、小野楓ちゃんか。分かったよ。よろしくね」
小野楓の名前があるのを発見して、僕は思い出した。
なるほど。
最近は他で忙しくて、紫個人の頼みなのに忘れていたけど、それはそれは珍しい依頼だった。
内容はよく覚えている。
「で、破名。この子が紫が言ってた本人なの?」
「破名って呼ばないで」
「んー、じゃあハナナン」
「殺す」
「うわー怖っ。ね、小野楓ちゃん?」
僕がそう棒立ちの小野楓に笑うと、全くそのことを予想してなかったのか、
「えっ!」
と、驚く彼女。
なんだか、至極普通の女の子には久しぶりに会った気がする。
なんの感慨もないけど。
「いいねー。君みたいな子が好きだよ」
なーんて言ってみたり、したりしなかったり。
「えっ!!」
「小野楓さん。こんな奴の言うことなんて、放っておきなさい」
「ひどいなー。僕、ハナナンのことは好きだって言わないよ」
「ありがたい話ね」
僕がとんだ茶番を繰り広げようとしてるのを見透かしたように、彼女はこのように冷たい。
だから、僕は彼女に好きだなんて言わない。
僕が彼女にそんなこと言っても面白くないから。