透明人間の色
“正義ごっこ”
それはどこかで聞いたような言葉だった。
いつ、誰が言ったんだっけ?
「正義ごっこ………」
「うん、分かったら帰って?」
なんだっけ、それ。
「ねえ、聞いてんの?」
思い出せそうで思い出せない。
「ねぇ」
なんだろ、このモヤモヤ。
「ねえってば」
目の前の彼が私に掴みかかってきたけど、私はそれどころじゃなかった。
あれは確か、暗い場所で
『………僕は、東城が僕は正義ごっこをしているだけだと、そう証明してくれることを期待してるんだよ。東城という人を知ってから、ずっと』
そうだ、思い出した。
「霧蒼」
そう呟いた瞬間だった。私の肩をつかんでる手がビクリとはねる。
見上げると、強ばった表情でこちらを見る彼と目が合った。なかなかに分かりやすい性格をしているらしい。
「霧蒼、知ってるの?」
「………だったら?」
「その正義ごっこ、私も交ぜてよ」
真相にたどり着けるなら、これから何が起こるのか分かるなら、私は霧蒼の期待を裏切ってでも正義ごっこに加わろうと思う。
そして、否定できるものなら、ご期待に添えてしてやろうではないか。
誰のためでもなく、ただ私自身のワガママを通すために。
「正義ごっこの参加券一人分ちょーだい。はい、三百万」
私は札束で今だ肩にある彼の手を叩いてそう言った。その時一瞬驚きの色を見せた彼の瞳だが、すぐにそれはほの暗いものへと変わる。
口元を気持ち悪いほど歪ませた彼は、蔑みをたたえたその目で、私を嘲笑う。
「参加券配ってたのは君なんだけどねー」
あの方もなんでこんな女がいいんだろ、ハナの方がずっといい女なんだけどねーっと続けた彼に、私はどう返せばいいか分からなかった。
止まった空間の中でただ時間だけは平等に流れていく。
晶人さんが出ていってから三時間が経過しようとしていた。