透明人間の色
私は焦りを感じた。
時間があとどれくらい残されているのか分からない。自分自身の目的もはっきりと分からなければ、とりつく島もない。
万策尽きるとはまさに、そう思った時だった。
「意地悪はそのヘンで止めにしとけば」
よく知っているはずの可憐で儚げな少女、私が少し憧れさえ抱いていた彼女は、なぜかその容姿に似合わないような出で立ちで現れた。
当然のごとく私の部屋に入ってきて、この世の何もかもが鬱陶しいとでも言うように、勝手にタバコを吸い始めた。
火をつける動作が自然で、まるでいつもの習慣のような感じに思える。
いや、あり得ない。
だって、彼女はそういうんじゃない。
へそだしの黒シャツに迷彩柄の短パンの彼女は、濃い化粧までしていて、まるで彼女じゃない。
なのに、なのに私は彼女は彼女だと確信があった。
「花?」
驚きのまま私がそう声をかけると、初めて私にチラリと視線を向けた彼女は、また視線を反らす。
「“花”ってあんたに言われるのが一番嫌なの。やめてくれる?」
「え?」
「私は“花”じゃなくて“破名”」
同じじゃないか、とそう言いかけた時、
「でも、“破名”って呼んでいいのはあの方だけだから」
そう言われて、困り果てる。
なんだか知らないがハナと呼んではいけないらしい。
「じゃあ、なんて___」
「呼ぶな」
豹変ぶりに驚くのは見た目だけではなく、しゃべり方もだったらしい。
普段は気を付けて女の子らしい声を出していたのかもしれない。
彼女の低音はそれくらい威圧感があった。
「ヘイ、カノジョ!」
「うっさい」
「おー、カノジョは良いみたいだよー」
「良くない」
彼はまるでそれを気にしないようだが。