透明人間の色



私は焦りを感じた。

時間があとどれくらい残されているのか分からない。自分自身の目的もはっきりと分からなければ、とりつく島もない。


万策尽きるとはまさに、そう思った時だった。



「意地悪はそのヘンで止めにしとけば」



よく知っているはずの可憐で儚げな少女、私が少し憧れさえ抱いていた彼女は、なぜかその容姿に似合わないような出で立ちで現れた。

当然のごとく私の部屋に入ってきて、この世の何もかもが鬱陶しいとでも言うように、勝手にタバコを吸い始めた。

火をつける動作が自然で、まるでいつもの習慣のような感じに思える。

いや、あり得ない。


だって、彼女はそういうんじゃない。

へそだしの黒シャツに迷彩柄の短パンの彼女は、濃い化粧までしていて、まるで彼女じゃない。


なのに、なのに私は彼女は彼女だと確信があった。


「花?」


驚きのまま私がそう声をかけると、初めて私にチラリと視線を向けた彼女は、また視線を反らす。


「“花”ってあんたに言われるのが一番嫌なの。やめてくれる?」


「え?」

「私は“花”じゃなくて“破名”」


同じじゃないか、とそう言いかけた時、


「でも、“破名”って呼んでいいのはあの方だけだから」


そう言われて、困り果てる。


なんだか知らないがハナと呼んではいけないらしい。


「じゃあ、なんて___」

「呼ぶな」



豹変ぶりに驚くのは見た目だけではなく、しゃべり方もだったらしい。

普段は気を付けて女の子らしい声を出していたのかもしれない。

彼女の低音はそれくらい威圧感があった。



「ヘイ、カノジョ!」

「うっさい」

「おー、カノジョは良いみたいだよー」

「良くない」



彼はまるでそれを気にしないようだが。




< 225 / 248 >

この作品をシェア

pagetop