透明人間の色
「うっざいから」
「えー、この子よりもー?」
二人の注目がこっちに向く。彼は敵意むき出しの目で、彼女は興味なさそうな目で。
私はそんな二人を見つめ返した。ここで目をそらしたらいけない、そんな気がしたから。
ただずっと見つめているのは正直な話、私には苦行だ。
馴れない人の目を見るという行為がもともと得意じゃない。目が合うということは、私に注目しているから起きるわけで、注目されるとどうすればいいか分からなくなってしまうから。
しばらくして、彼女の方がすっと目を細めた。
「美香よりはあんたの方がマシ」
「えー、残念」
マシと言われた彼は、なぜかそう言う。軽い口調のわりに暗い目をしているところに狂気が滲んでいるような気がした。
「で、なんで出てきたの、カノジョ?」
「………ただの気まぐれよ」
「これから、あの方とデートなんじゃなかったけー?」
その言葉に彼女は少しだけ顔を歪ませた。その苦々しい表情は、彼女が私に見せた初めての表情らしい表情だったのかもしれない。
「隣でお守りすることをデートって言うならね」
その時、なぜ同じ美術部員であるはずの彼女が、ここにいるのか。その理由がなんとなく分かった。
私の監視のためにいた隣の部屋の彼。雇い主は晶人さん。
なら、私が学校にいる間も見張られてておかしくない。
「ねぇ、さっきから出てくるあの方って誰?」
「分かってるでしょ」
振り向いた彼女が冷たい瞳でこちらを睨み付ける。
でも、それでも私は直接言葉で聞きたかった。
「誰なの?」
「………ほんと、うっざ」
手にしたタバコを壁に押し付けた彼女は、その焦げた白をじっと見ながら、吐くように答えた。
「あんたの大好きな晶人さんだよ」